2004年11月17日,NEDO 技術開発機構(独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構) は,「ナノテクノロジーがもたらす産業への影響と国民生活」と題して記者説明会を開催した。同機構は,日本の産業技術分野の研究開発を行う中枢機関の役割を担っている。今回,記者説明会を開催したのは,ナノテクノロジーの意味と重要性を広く国全体に伝えるためにも,専門の情報誌ではなく一般向けの新聞や専門外の情報誌の記者に対して理解を深めたい目的があった。子供でも親しむことができそうな絵(図1)を使って解説することで,効果はあったと考えられる。

 ナノテクノロジーは,IT・エレクトロニクス,バイオテクノロジーなど広範な技術分野を支える共通基盤技術であり,パラダイムシフトを起こすキーテクノロジーとして注目されている。従来の科学や技術とは一線を画する新しい技術であること,応用分野が非常に幅広いことなどから,なかなか一般には理解されにくい部分もある。

 このため,今回の記者説明会には,経済産業記者会をはじめ,経済産業省ペンクラブ,エネルギー記者会,文部科学記者会,科学記者会の加盟社,出版社やウェブマガジンなど幅広いジャンルのメディアの記者を招待した。同機構 参事の本城 薫氏(写真)の挨拶後,統括研究員の寺本 博信氏がナノテクノロジーの概念,NEDO 技術開発機構 ナノテクノロジー・材料技術開発部の取組み,ナノテクノロジー市場や各国の取組みなど,ナノテクノロジー全般についての解説を行った。

 ナノテクノロジー・材料技術開発部の取組みでは,現在,寺本氏が所属するナノテクノロジー・材料技術開発部が中心となって進めている19のプロジェクトについて概要を解説。例えば,日立製作所 日立研究所に委託して進めるナノガラス技術プロジェクトでは,青色レーザーと集光機能ナノガラス薄膜を用いて従来のDVDの4倍もの記録容量を実現する高密度DVDの開発についてビデオで紹介。さらに近い将来,実現する超高臨場感のある立体映像を再生するホログラム光ディスクの開発プロジェクトなどを紹介した(図2)。

 ナノテクノロジー市場は,今後,確実に成長していくことが見込まれており,日欧米の3極に加え,最近では韓国や台湾も国をあげてナノテクノロジーに取り組んでいる。国家間での研究開発競争が激化することはいうまでもない。そのため,NEDO 技術開発機構ではナノテクノロジービジネス推進協議会(NBCI)との連携によって,プロジェクトの成果を事業化へ結びつけていくことで,わが国のナノテクノロジー研究開発の中核を担うことをアピールした。

 なお,記者説明会の資料としては,ニュースリリース一式,プレゼン資料,ナノテクノロジー事業の紹介パンフレット,CD-R(パンフレットのページに対応したナノテク成果の写真),カードサイズCD(NEDO 技術開発機構の紹介)を配布した。

 このような多彩なメディアの記者を対象にした説明会は,今後,ナノテクノロジーの重要性を一般に広く伝えていくために有効な方法の一つである。今回のナノテクノロジーに続き,2004年12月には「フラットパネルディスプレイ」,2005年1月には「ナノバイオ」に関する記者説明会を行う予定だ。わが国の産業を基盤から支える先端技術の概要を知るという意味では,この記者説明会は非常にいい試みであると言えよう。ちなみにNEDO 技術開発機構は,誰もがアクセスできるホームページにも「よくわかる!技術解説」コーナーを設け,難しい技術をわかりやすく説明することに力をいれている。(佐藤銀平)

【図1】説明会に用いた図。子供でも親しむことができるタッチになっている
【図1】説明会に用いた図。子供でも親しむことができるタッチになっている

【写真】冒頭に挨拶を行った参事の本城 薫氏
【写真】冒頭に挨拶を行った参事の本城 薫氏

【図2】上は日立製作所 日立研究所に委託して進めているナノガラスを用いる高密度DVDの研究開発内容の模式図,下はこれまでのデータ記憶メディアの開発の流れ
【図2】上は日立製作所 日立研究所に委託して進めているナノガラスを用いる高密度DVDの研究開発内容の模式図,下はこれまでのデータ記憶メディアの開発の流れ